忘れるまでの時間の秘密、脳で短期記憶を担う「海馬」で確認

忘れるまでの時間はどうやって決まるのか。神経細胞を直接見て確認した研究が報告された。神経細胞から飛び出すとげが延びて、ほかの神経細胞とつながる場所である「シナプス」の入れ替わりのサイクルが記憶を保つ期間と連動しているようだ。精神や神経の働きを考えるヒントになる。
海馬の記憶保存期間は約1カ月
バイオ医療分野における世界的な拠点である、米国スタンフォード大学Bio-Xを含む研究グループが、有力科学誌ネイチャー誌2015年6月22日号オンライン版で報告した。脳の左右にある「海馬」と呼ばれる場所は記憶を担うと知られている。何らかの「エピソード」を記憶しているのはこの海馬となる。エピソードの記憶とは、出来事や会話の記憶となる。記憶は思い返さなければ、時間とともに忘れ去られる。海馬で得たエピソードの記憶は1カ月保っていられる。その後、「新皮質」という脳の異なる領域で再度保存される。記憶は脳の中を移動する。
記憶の「長期貯蔵庫」と「調整弁」
脳の神経細胞ではとげ状の足が伸びて、ほかの神経細胞とつながりを保っている。そのつながる場所を「シナプス」と呼ぶ。そのネットワークで記憶は保たれると言われる。意外と、実際の記憶との関係でそのつながりの変化を観察するのは難しい。研究グループによると、以前の研究では脳の表面に近い「新皮質」では確認されている。新皮質では、神経細胞から延びるとげが出たりなくなったりした。新皮質のとげの半分は継続して出るのに対して、残りは5日〜15日ごとに入れ替わる。新皮質の神経細胞で延びるとげの半分は記憶の長期保存庫の役割となり、残りの半分は新しいことを記憶し、忘れるための調整弁になっている。まさに記憶を保つ期間と関係している。研究グループは同様な神経細胞の動きが海馬でも起こっていると考えた。研究グループは脳の深くにある海馬を観察するため、「マイクロエンドスコープ」と呼ばれる特殊な針状の顕微鏡を使用して、神経細胞の動きを分析した。
海馬でも「とげ」の変化を確認
研究グループはネズミの海馬の神経細胞同士がつながる様子を観察することに成功。海馬領域では、3週間〜6週間ごとに入れ替わるとげがあると確認した。ネズミのエピソード記憶の継続期間とほぼ一致した。やはり脳の神経細胞は、神経細胞のつながりにより記憶を保っていた。ストレスや神経疾患に関わる記憶の研究に、大きな進展となり得ると研究グループは見る。
文献情報
Brain connections last as long as the memories they store, Stanford neuroscientist findshttp://news.stanford.edu/news/2015/june/memory-monitor-biox-061715.htmlAttardo A et al. Impermanence of dendritic spines in live adult CA1 hippocampus.Nature. 2015 Jun 22.[Epub ahead of print]http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26098371