電子たばこ「国が規制を進めよ」米国がん関連の2大医学会が共同声明を発表
「電子たばこは国が規制を進める必要がある」米国のがん関連の分野では2大学会と言える「米国がん学会(AACR)」と「米国臨床腫瘍学会(ASCO)」はこの1月8日に電子たばこの規制を国や業界に求めるべく共同声明を同時に発表した。国際的にも影響のある2学会の見解は大きな影響力を持ちそうだ。
2022年には従来たばこを上回る勢い
背景には、電子たばこが世界的に急拡大している状況がある。電子たばことは、細い棒型のパイプの中で電熱線により液体を熱し、少量の蒸気を発生させ、吸引するたばこに似せた吸引器。一見たばこを吸っているような外観とムードがあり、たばこを吸っているような気分になるので禁煙に役立つ効果が期待されてきた。特に若者と女性で普及していると見られている。たばこの健康への悪影響が明確になる一方で、電子たばこの健康への負担の軽さが強調されてきたと見られている。日本でも厚生労働省が昨年11月に、電子たばこの影響について検討に着手している(電子たばこの蒸気から発がん物質を検出、たばこの害を助長する「最悪のシナリオ」も説明を参照)。厚労省の研究班「たばこの健康影響評価専門委員会」の中で、国立がん研究センターがん対策情報センターたばこ政策研究部の望月友美子氏は電子たばこをめぐる研究や規制などの情報を整理。この中で電子たばこの急拡大についての統計データを示していた。電子たばこの急増で、2022年には販売の営業利益額で従来のたばこを上回る勢いがあると説明している。2023年にはパック数で上回るとの予測も出ていると説明した。
電子たばこそのものに発がん性?
一方で、電子たばこの健康への影響については議論が紛糾してきた。ここ数カ月だけでも研究報告が続々と出ていた。健康に良いという見方と悪いという見方が双方出ている。国内では、先に紹介している厚労省の研究班の中で、国立保健医療科学院生活環境部の欅田尚樹氏の研究グループが、電子たばこの5つの銘柄を選んで蒸気を発生させて、発がん性のある「カルボニル類」と呼ばれる成分が発生すると問題視していた。有効成分を溶かすプロピレングリコールなどの油分に熱を加えると出てくるというものだ。人間に悪影響を及ぼす可能性もあると指摘した。海外では、米国の研究グループが、耳鼻咽喉科のトップクラスの雑誌で、電子たばこが発がん物質も発生させずに喫煙による病気の負担を軽くすると報告した(「電子たばこ」ならば発がん物質なし、動脈硬化、ぜんそくや中耳の病気も引き起こさずを参照)。火をつける従来のたばこと比べると「ましだ」という見方も根強くある。
禁煙を促す効果は?
さらに、禁煙を導くのが電子たばこの利点になると見られている。前向きな立場としては、ベルギーの研究グループが、禁煙の成功率が半数に及ぶとして電子たばこの役割を高く評価している(次世代電子たばこ「半数近く禁煙」成功?ベルギーからを参照)。英国からは、喫煙量を減らす効果があると報告されている(電子たばこ「禁煙には役立たない」、喫煙量減らすには有効を参照)。もっとも禁煙にはつながらないという実態も示している。
「従来たばこ入門編」の懸念強く
慎重な意見で大きいのは若い人の喫煙の入門編になるという見方で、問題視する動きが目立ってきている。喫煙したことのない人が、たばこに親しむきっかけになるというものだ。米国からはこの12月に電子たばこが新たな喫煙を増やすという報告が出たばかりだ(電子たばこ「禁煙につながらず」、ニコチン依存の入門にを参照)。ポーランドと米国のグループも若者の喫煙を1.5倍に伸ばす影響を報告している(電子たばこで10代の喫煙率を1.5倍に、通常たばこの喫煙率減らす効果は幻かを参照)。異なる観点から米国の研究グループは、電子たばこがいわゆる不良的な行動を助長するという研究結果もまとめている(電子たばこは不良を招く、高校生でリスク判明を参照)。さらに昨年末、米国のジョンズ・ホプキンス大学の研究グループも、有力医学誌の小児科版、ジャマ(JAMA)ペディアトリクス誌2014年12月29日号にこの問題に関する研究結果を報告した。ここでは未成年に対する電子たばこの対策を講じるよう提案していた。
国の規制を求める
こうしたさまざまな研究報告や考察に押されるように、米国の2大がん学会が共同声明を発表したわけだ。提言では、米国食品医薬品局(FDA)が電子たばこの規制に乗り出すことのほか、事業者が国に登録するような形を取るべきであること。パッケージにおいてニコチン依存の恐れについて警告を記載することと製品の規制を強化するよう求める。さらに年齢制限や使用制限も求めている。電子たばこ本体と補充用のカートリッジについて年齢制限を設けること。若者を狙ったような広告を禁止すること。子どもが好むような風味を禁止すること。安全が確認されるまで、喫煙が禁止される場所では使用を禁止すること。その上で、研究や規制を適切に進めるよう要請している。電子たばこを通して得られた税金が発生するとすれば、電子たばこの研究に投じられるようにすべきであること。研究から得られたデータは全て公開すべきであること。行政は公衆衛生に利益をもたらすよう規制を行うこと。米国の学術会が本格的に動き出しており、日本も早晩大きな動きが出てもおかしくなさそうだ。
文献情報
Brandon TH et al, Electronic Nicotine Delivery Systems: A Policy Statement from the American Association for Cancer Research and the American Society of Clinical Oncology. Clin Cancer Res. 2015 Jan 8. [Epub ahead of print]