「クリスパーで遺伝子治療」の可能性、MITから報告
「クリスパー・キャス(CRISPR/CAS)の倫理問題」の議論を紹介したが、一方でこの技術は体細胞の遺伝子改変を可能にする技術として大きな期待を集めている(完璧な人を作る技術「クリスパー・キャス」?中国研究のリークで国際問題へを参照)。すぐにでも人に使えるところまで来ていると示す研究がマサチューセッツ工科大学から発表された。タイトルは「黄色ブドウ球菌のCas9を用いた体細胞ゲノム編集(In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9.)」だ。
小さい遺伝子で対応
クリスパーの技術で人や動物の体の細胞の遺伝子を直接編集するためには、遺伝子を体細胞に導入する方法が必要だ。幸い、20年以上にわたる研究の結果、実用にこぎつけたさまざまな遺伝子治療ベクターが開発されている。例えば肝臓細胞に遺伝子を高率に誘導するために、「アデノ随伴ウイルス(AAV)」を遺伝子の運び役に用いる高効率の方法がある。ベクターと呼ばれる機能を果たす。クリスパーの場合、「Cas9」の遺伝子を入れる必要があるが、大きい遺伝子なので、AAVベクターでは対応できない。今回の研究では、検討の結果、同じCas9でも小さい遺伝子を黄色ブドウ球菌から応用できると発見した。この条件であれば、AAVベクターでも対応できる。書けば簡単だが大変な仕事だ。膨大な基礎実験を繰り返している。専門家にとっては、ここで用いられる方法は極めて重要だ。クリスパーを単に便利な道具として考えないためにもゆっくり読んでほしい。しっかり理解しないと新しい発想は生まれない。
人間の遺伝子も編集可能へ
全く新しいシステムについて、効率を確かめる意味で、動物実験で遺伝子の編集を確かめている。治療に利用できるか試す意味で、「PCSK9」という遺伝子の編集を行った。この遺伝子は欠けてしまうと、LDLが低下して、コレステロールも低下するため、冠動脈の病気を予防できると知られている。この遺伝子を編集したところ、驚くべきことに40%の染色体で遺伝子編集が起こり、血中に流れるPCSK9から生じる分子は90%減り、コレステロールが40%低下した。肝臓なら明日からでも人に応用できるところまで技術は進んでいると示している。問題を乗り越えながら、この技術は確実に臨床応用へ歩を進めている。
文献情報
Ran FA et al.In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9. Nature. 2015 Apr 1.[Epub ahead of print]
In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9. – PubMed – NCBI
Nature. 2015 Apr 9;520(7546):186-91. doi: 10.1038/nature14299. Epub 2015 Apr 1. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t; Research Support, U.S. Gov’t, Non-P.H.S.