脳ヘルニアは進行すれば直ちに「死」?恐怖の各症状と予防について

脳ヘルニアは「脳の」ヘルニア
「ヘルニア」という言葉は、椎間板にもあるように一般的によく耳にするものです。ですがヘルニアという言葉は「本来あるべき箇所から突出している状態」という意味であり、何もヘルニアは椎間板だけに及ぶ訳ではないのです。ある程度軟らかい組織であれば突出する可能性はあり、それは椎間板だけに非ず脳も例外ではないのです。
脳が突出したその時、それは「脳ヘルニア」となり直ちに命が危ぶまれる状況になる可能性があるでしょう。以降で脳ヘルニアについての基本的な概要、種類や分類、症状、予防法等について、詳しく解説させていただきます。多くの脳ヘルニアは、「脳ヘルニアにならないように」すれば予防が出来ると考えられますので、記事をしっかりと参考にして下さい。
どうなれば脳ヘルニアなのか
まずは脳ヘルニアとは何なのか、また脳ヘルニアになるとどうなるのかについてお伝えします。
脳が押し出され圧迫を受けている
冒頭でも軽く説明しましたが、脳ヘルニアとは脳が突出した状態を指します。そこに至るには、脳浮腫等による頭蓋内の病変により脳の容積が増える、また脳血管障害により脳内に血液が止まる、水頭症による頭蓋内の髄液増大などにより、脳の圧力が高まる事で発症するとされています。これを「頭蓋内圧亢進」と言い、脳ヘルニア発症の条件となると言われています。
生命維持中枢に危険が及ぶ
なお頭蓋内圧亢進が起き脳ヘルニアを発症すると、最悪生命維持中枢をも圧迫してしまいます。それにより、呼吸中枢等の生命を維持する為に必要不可欠な機能にも障害が現れる可能性があり、その際は呼吸そのものが止まり直ちに生命危機に陥ります。運良く命拾いしても、高い確率で後遺症を残してしまう傾向にあるようです。
最悪死に至る脳ヘルニアの各症状
脳ヘルニアは、「脳」という人間の中枢にダメージを引き起こす事から、最悪死に至ります。その為、脳ヘルニアが呈する症状には敏感になっておかなければなりませんので、ここで症状に関する詳細を解説します。
意識障害
脳ヘルニアによる急性症状の典型と言えるものです。「意識障害」など、おおよそどの疾患でも末期と言われる程の症状ですが、脳ヘルニアの場合は初期にこの症状が現れる傾向があります。これは頭蓋内圧亢進が始まった初期であると考えられ、時に頭痛や嘔吐、めまいを経由した後に意識障害を起こすパターンもあるようです。
瞳孔の異常
これも意識障害と同じく脳ヘルニアの初期症状となります。脳へのダメージは瞳孔の異常も呈し、瞳孔不同(瞳孔の大きさが左右対称ではない状態)、瞳孔散大(瞳孔が開きっぱなしになる)、対光反射消失(目に光を当てても縮瞳しない)を引き起こします。なお瞳孔不同の場合は、脳ヘルニアが現れている側の瞳孔が大きくなるようです。
クッシング徴候
別名、「クッシング現象」「クッシング反応」とも呼ばれます。これは脳ヘルニア以前の頭蓋内圧亢進時、脳は一時的に虚血状態に陥るのですが、この際体の代償機能により心拍数や血圧の上昇がなされます。これにより末梢血管収縮を引き起こし、高血圧状態となり最終的に徐脈を呈してしまう事になるのです。
呼吸困難
脳ヘルニアにより呼吸中枢へのダメージがあった、または脳ヘルニアにより頭蓋内圧亢進がさらに進んだ場合の症状になります。呼吸困難の状態であればまだダメージはそれほど大きくないと考えられますが、末期となればビオー呼吸、チェーンストークス呼吸等の異常を経由した後に、呼吸停止に至る事も少なくないようです。
最悪の場合死に至る
脳ヘルニアが進行した場合、脳へのダメージは計り知れません。前述の症状を呈した後は除皮質硬直(大脳皮質の障害で発現する硬直)を経て除脳硬直(中脳の損傷により発現する硬直。除皮質硬直より重度)を呈した後、終末像として脈の乱れと血圧低下を起こして死に至ります。ここまで脳ヘルニアが進行すると、手術すら行えずまず助かりません。
数多い脳ヘルニアの種類
一口に脳ヘルニアと言っても、その種類は数多くあるようです。ここではそね脳ヘルニアの種類について一つずつご説明して行きます。
帯状回ヘルニア
別名「大脳鎌ヘルニア」とも呼ばれ、大脳の内側面や帯状回が大脳鎌から反対側へ突出してしまった脳ヘルニアを指します。部位的に、ヘルニアを起こしても危険度が低いと考えられ、実際症状と呼べる症状は見られない傾向にあるようです。ただし時折脳梗塞を起こすとされ、やはり危険な事には変わりないと言えるでしょう。
鈎ヘルニア
鈎または鉤回ヘルニア、テント切痕ヘルニアと言い、側頭葉の鉤回が突出して脳幹が圧迫され、頭蓋内圧亢進となり中脳や大脳動脈等に障害が現れます。意識障害、瞳孔の異常、麻痺、病的な反射動作、さらに進化すれば除皮質硬直や除脳硬直が現れ、これを経由した後は呼吸停止による死亡がこの脳ヘルニアの典型的なルートだと言えます。
上行性ヘルニア
正式には「上行性テント切痕ヘルニア」と言います。テント切痕内に小脳が突出(この場合は「入り込んだ」状態)し、中脳が圧迫され閉塞性の水頭症を発症する恐れがあります。症状に関しては鈎ヘルニアに近く、意識障害、瞳孔の異常、麻痺、病的な反射動作を呈し、進行時の除皮質硬直や除脳硬直も同様に現れると考えられます。
大孔ヘルニア
脳ヘルニアの内、最も危険度が高く死亡率の高いものとなります。腫瘍や出血により頭蓋内圧が亢進され、小脳扁桃が押し出されて大孔に入り込んだ状態となり、呼吸中枢に障害が及び呼吸停止を催してしまうようです。さらに、押し出された小脳扁桃により小脳動脈が圧迫される事で、小脳梗塞を引き起こす事もあるようです。
何故脳ヘルニアになるのか
何故こんな致命傷とも言える脳ヘルニアを発症してしまうのでしょう?実のところ、理由はそれほど複雑ではないようです。
外的、物理的要因によるもの
脳ヘルニアは、頭蓋内圧亢進により発症すると先に記述しました。実は、それは疾患だけでなく外的、物理的な要因でも引き起こされるのです。外的、物理的要因…要は頭部強打や外傷等の外部からの干渉により脳が腫れてしまったり脳出血を引き起こす事で、頭蓋内圧が亢進されてしまい最終的に脳ヘルニアにまで至ってしまうのです。
疾患等の内的要因によるもの
勿論、脳疾患等による内的要因でも頭蓋内圧は亢進されます。脳出血(病的なもの)、脳腫瘍、水頭症など、これらの疾患が呈する病変は脳圧を高めてしまう可能性を引き上げてしまうでしょう。さらに内的要因によるものは、その疾患自体が生命危機に陥れてくる場合も多いので、予後は結果的に悪くなる傾向にあるようです。
脳ヘルニアの検査と治療法について
人体に致命的なダメージを与える脳ヘルニアを、医療機関はどのように対処するのでしょう?ここではそれについて詳しくご説明します。
検査方法
まず検査方法ですが、意識障害や瞳孔の臨床症状が現れた際は脳ヘルニアの疑い有りとし、頭部CTによる脳内の確認が必要不可欠となるでしょう。脳ヘルニアである場合、本来左右対称である脳に歪みが確認されたり、もともと隙間がある筈の箇所が圧迫の為にその隙間が消失していたり等の、明らかな異常が発見されると考えられます。
治療法について
検査により脳ヘルニアが確認されれば、直ちに治療が開始される事になるでしょう。もしその脳ヘルニアが血種等の病変により引き起こされているならば、開頭血腫除去術により病変そのものを取り除く処置が取られると考えられます。血種がないまたは病変が小さい場合は、薬物治療となり脳圧を下げる薬(グリセオール等)を点滴注射しつつ経過観察になると思われます。
脳ヘルニアの予後
脳ヘルニアの予後については、その脳ヘルニアをどの程度で食い止められたかで大きく変わります。意識障害の症状のみでヘルニアも経度であれば、薬物治療のみで社会復帰にまで至る事も少なくはないのですが、除脳硬直にまで至ってしまえば回復も見込めず死亡、または死亡は免れても生涯看護が必要な状態になると考えられます。
脳ヘルニアの死亡率
これについては、実のところ脳ヘルニアの種類によってまちまちです。大孔ヘルニアであろうが鈎ヘルニアであろうが、初期で治療を施せばそれだけ生存率は上がりますし、どの脳ヘルニアであろうと除脳硬直にまで至れば明日をも知れぬ身となる事必至となるでしょう。脳ヘルニアとは、治療時の症状の程度で劇的に死亡率が変わるのです。
脳ヘルニアの予防と注意点
これだけ恐ろしい脳ヘルニアは、やはり予防という観点が必要になります。ここでは、脳ヘルニアの予防やその他注意点についてお伝えさせていただきます。
生活習慣の改善
運動不足、乱れた食生活、喫煙習慣、寝不足などの生活習慣の乱れは、動脈硬化を促し脳血管障害の発症率を高めてしまいます。よって適度に運動をして血管を堅固なものにし、喫煙習慣を無くし食生活を正して血液を正常にし、抵抗力や体力を維持する為に寝不足を解消するのは、脳ヘルニアは勿論あらゆる生活習慣病を防ぐ手立てとなるのです。
日常生活での事故等の注意
要は「頭部外傷を防ぐ」という観点となります。交通事故や転落事故により頭部外傷を負ってしまえば、それだけ頭蓋内圧の亢進を伴う確率も上がってしまうと言えるでしょう。日頃から行き交う自動車等に注意を払い、高所での作業時は頭部保護(ヘルメットなど)に努めるなど、頭部への損傷の可能性を出来るだけ下げておく必要があるでしょう。
避けられるものは避ける努力をする
最悪死に至る脳ヘルニアは、脳ヘルニアに至った瞬間に死の可能性があなたの間近に現れると考えて下さい。脳ヘルニアの種類によっては命拾いするようですが、はっきり言ってそれは少数であり圧倒的に危険性の高いものばかりであるのが現実なのです。よって、脳ヘルニアに「ならない」という観点を持つ事が前提であると言って良いでしょう。
ですが、疾患を起因とする脳ヘルニアについては「ならない」と意気込んでも難しいところがあります。しかし外的、物理的要因であれば今からでも予防は可能ですし、それを行うだけで外的、物理的要因による脳ヘルニアを避けられるのです。小さな事からこつこつで構いませんので、脳ヘルニアについて考えていきましょう。