抗生物質が「がん幹細胞」の消滅を促す、新しい治療手段の可能性、英国グループが報告
既に長く使用されているいわゆる「抗生物質」、抗菌薬を使ったがん治療法が生まれる可能性があるようだ。がん幹細胞の増殖に必要な「ミトコンドリア」を破壊するというものだ。英国マンチェスター大学を含む研究グループが、腫瘍学分野のオープンアクセス誌、オンコターゲットのオンライン版で2015年1月22日に報告した。
がん幹細胞はミトコンドリアに依存
細胞内の小器官、ミトコンドリアは細胞の「エンジン」部分に相当する。幹細胞が変異、分裂して腫瘍になる際にもエネルギーを供給する。がん幹細胞は全てのがんで成育と再発に強く関与。通常の治療では根治が難しく、治療抵抗性にもつながっている。研究グループは、腫瘍の種類とは無関係に、「幹細胞の病気」としてがんを治療する方法を探るうち、がん幹細胞がその増殖と生存をミトコンドリアが増えていく「ミトコンドリア新生」に依存していることに着目した。米国食品医薬品局(FDA)認可の抗菌薬の中には、「副作用」としてミトコンドリア新生を阻害することも判明している。そこで、グリオーマの中でも最も悪性の高い膠芽腫(こうがしゅ)のほか、肺がん、前立腺がん、卵巣がん、乳がん、膵臓がん、皮膚がんを含む8種類の異なるがん細胞で実験した。ミトコンドリア新生阻害抗菌薬5種類「エリスロマイシン」「テトラサイクリン」「グリシルシクリン」「抗寄生虫薬」「クロラムフェニコール」を使用。このうち4種類が全ての実験でがん幹細胞を消滅させた。これらの抗菌薬の多くは正常な細胞には有害な影響を及ぼさなかった。
「祖先は細菌」
ミトコンドリアは、生命の進化のごく初期に細胞内に入った細菌が祖先と考えられている。細菌を破壊する抗菌薬がミトコンドリアにも影響を及ぼすのはそのためと研究グループは考えている。研究グループによると、がん幹細胞ではないが、がん関連の感染症の治療に抗菌薬を用いた以前の臨床試験では、アジスロマイシンが肺がんを患う人の1年生存率を45%から75%に増加させた事例がある。さらに、リンパ腫を患う人に3週間のドキシサイクリン治療で完全寛解した事例もある。感染症とは無関係の効能が実証されている。これらの抗生物質は既に長い間使用されて、有害影響がないことが証明されている。FDAの承認も受けているため、治療法に使用できればお金と時間の節約になる。向こう10年の内に増加が予想される発展途上国のがん治療にも有益と思われる。日本でも注目されそうだ。
文献情報
Lamb R et al.Antibiotics that target mitochondria effectively eradicate cancer stem cells, across multiple tumor types: Treating cancer like an infectious disease.Oncotarget.2015 Jan 22 [Epub ahead of print]
Oncotarget. 2015 Mar 10;6(7):4569-84. Research Support, N.I.H., Extramural; Research Support, Non-U.S. Gov’t
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