腹膜播種の初期症状から末期症状まで。症状、治療法を理解しよう
はじめに
この記事をご覧になっている方の多くは、ご自身やご家族などの親しい方が、医師より「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と診断された方ではないでしょうか。
腹膜播種の症状や治療法について調べようと思っても、難しい言葉が多くわかりにくいことと思います。こちらではできる限りわかりやすくご説明し、腹膜播種を知らなかった方々にも広く知っていただけたらと思います。
腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは
腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、がんと呼ばれる悪性腫瘍細胞が最初に発生した臓器から他の臓器へと転移する様式の中のひとつです。
まず腹膜とは、胃や肝臓などのお腹の中にある臓器を全体的に、または部分的に覆っている薄い半透明の膜のことです。
次に、播種とは「作物の種をまくこと」。医学的には、がん細胞などが最初に発生した臓器から種をまいたように散らばり、体全体に広がったり、他の臓器に移ったりすることを言います。
つまり、腹膜播種とは腹膜のほうへがん細胞がまかれること。もともと臓器の中で発生したがん細胞が増殖を続け、最初の臓器から腹膜に浸潤したのちに、腹膜に覆われた腹腔内へと種子がまかれたように細胞が移動します。そして、離れた別の部位の腹膜にくっついて、別の臓器でまた増殖を続けるのです。
腹膜播種の原因は何なのか?
なぜ腹膜播種が起こるのでしょうか?
腹膜播種というのは「がんの転移様式のひとつ」ですので、原因といったものは明らかではありません。
あえて言うならば、原因は「がんが末期であること」ではないでしょうか。
もともと、腹膜播種を起こすがんには以下の疾患が挙げられます。
・胃がん
・大腸がん
・膵臓がん
・胆道がん
・卵巣がん
これらのがんが発生した場所から、がん細胞が血流やリンパ管を通って、あるいは直接腹膜に散らばって広がります。つまり、腹膜播種の原因とは、がんが他の部位へ転移するほど増殖してしまった状態(末期状態)と言えます。
腹膜播種の初期症状から末期症状まで
腹膜播種による症状のまえに、まずはがん細胞についてご説明いたします。
がん細胞の大きさというのは、0.01mmほどしかありません。0.01mmというと、細い髪の毛のさらに5分の1程度の大きさです。もちろんこの大きさでは目で見ることは不可能です。
そんな大きさのがん細胞が腹腔内に移ってきたばかりのとき(初期の播種)は、とても小さく数も少ないため症状がありません。そして、この大きさでは超音波検査やCT検査を行っても見つけ出すことはできないのです。しかし、がん細胞は細胞分裂を繰り返すことで増殖を繰り返します。症状が出るほどまでにがん細胞の増殖が進行すると、超音波検査やCT検査でもがん細胞による異常な所見が見つかるようになります。
目に見えるほど大きな塊になると、以下のような症状を引き起こしていきます。
腸閉塞を起こす
腸閉塞とは、転移してきたがん細胞が増殖して小腸や大腸を塞ぎ、腸の通りを悪くしてしまうことです。
腸管が狭くなってしまうと、中を通る腸液やガス、糞便などが溜まっていきます。そうすると排便や排ガスがうまくいかなくなり、腹部膨満感、腹痛や吐き気、嘔吐などの症状が出てきます。
それだけでなく、急激に状態が悪くなって重篤な全身症状を引き起こす場合もあります。腸閉塞が起きてしまった場合は早いうちに適切な処置が必要となります。
腹水が溜まる
腹水は健常な人でも少量はあるものですが、がんが進行することで腹水が増えていきます。
腹水自体が増える原因としてはいくつかありますが、腹膜播種によって腹水が増える原因は癌性炎症にあります。
あるところから発生したがんが進行し、再発や転移をすることで、がん性腹膜炎を引き起こします。そうすると、炎症が起きている部分から体液が漏れ出し、やがて腹腔内に溜まっていきます。
また、がん細胞が増殖してリンパ管を塞ぐことによっても、がんの周囲や腹膜から体液が漏れ出します。
腹水が溜まっていくと、お腹が張って臓器などが圧迫され、どんどん苦しくなってきます。溜まった腹水に圧迫されることで、食べ物が胃腸の中に入りにくくなります。つまり、お腹が空いていても食べるとお腹がさらに張ってしまうため、なかなか食べられない状態になってしまいます。
黄疸(おうだん)が出る
胆汁とは消化液の中の一種です。肝臓の中で作られた胆汁は胆のうに移されて一時的に貯蔵され、必要な時に必要な量が腸管へ出てきます。しかし、胆汁の通り道である胆管ががん細胞によって塞がれてしまうと、胆汁が腸管に流れなくなり、胆汁が体の中に溜まります。
胆汁の成分であるビリルビンが皮膚に沈着することで黄疸を生じます。ビリルビンが皮膚に沈着するとかゆみを生じる場合があり、かき傷や皮膚の損傷の原因にもなります。また、過剰なビリルビンが腎臓から尿に排泄されることによって尿の色が濃い黄色になります。
さらに、腸の中の胆汁が不足していると、カルシウムやビタミンDなどの栄養素の吸収が悪くなります。これらの栄養素が欠乏すると、骨組織の減少を引き起こす場合もあります。また、血液が固まるのに必要なビタミンKも腸から吸収されにくくなるため、出血しやすくなったり出血が止まりにくくなったりします。
水腎症になる
腎臓は背中の方に存在している臓器です。がん細胞が背中の方に移っていくと、腎臓から膀胱への尿の通り道である尿管を塞いでしまう場合があります。この尿管が塞がれると水腎症を起こします。
水腎症とは、尿管が塞がれることで尿の流れが悪くなり、尿管の途中や腎臓の中に尿が溜まって広がってしまった状態のことです。腎臓に尿が溜まる状態が続くと腎臓に負担がかかり、やがて腎臓の機能が悪くなる可能性があります。また、腎臓に尿が溜まり続けることで背中の方に痛みを生じる場合もあります。
さらに、尿が溜まって排泄されにくくなると、そこで細菌が増えて感染を起こす場合もあります。これを尿路感染症といいます。
腹膜播種の治療…肝心なのは早期発見
外科的な治療法
手術をして開腹した時に初めて少数の腹膜播種が判明した場合のみ、肉眼的な根治切除と、手術の最後に高濃度の抗がん剤入りの食塩水を入れる術中腹腔内化学療法をあわせて行います。 明らかに播種が残っている場合には、この方法では治すことができません。
残念ながら、腹膜播種が進んでいて腫瘍が残ってしまう手術では、まったく延命効果がないことが明らかとなったため、あらかじめ腹腔鏡検査を行った時点で腫瘍が取り切れないと判断された場合は、あえて患者さんの苦痛をともなう開腹手術は行わないそうです。
内科的な治療法
腹膜播種が起こるということは予後不良、つまり完治が困難であることを意味します。
腹膜播種は、手術では完全に治すことができません。最初にがんの発生した臓器を切除したとしても、腹腔内に散らばってしまったがん細胞は手術で全て取りきることができないからです。事前の検査で腹膜播種を認めず、がんのある臓器を切除をするつもりで開腹をしたら腹膜播種が見つかったという場合、切除をしないでそのまま閉腹することもあるようです。
腹膜播種が起こってしまったために臓器の切除手術を受けられなかった場合、標準的な治療法として延命と症状を和らげることを目的とした抗がん剤治療を行います。
がん細胞によって小腸や大腸の通りが悪くなっている場合は、絶食をして点滴で栄養を補給します。そして、鼻の穴から胃まで挿入した管で胃液を体外に排出してあげることで嘔吐を抑えるようにします。
腹膜は肺や肝臓などに転移した場合と異なり、生命の維持に必ず必要な部分ではありません。そのため、腹膜播種の場合は、それだけで長い期間苦痛にさいなまれることもあるため、腹膜播種をうまくコントロールする必要があります。
以前は腹膜播種に対する薬の治療がほとんど効かないこともあり、診断されてから半年ほどの余命しかないことがほとんどでした。 しかし、現在では新しい抗がん剤や治療法が用いられるようになり、この治療で半数の患者さんが約1年生きられるようになったと言われています。
生活の質を維持するための治療法
腹膜播種を抱える患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するため、大学病院などではでは新たな治療の方法も実施されています。
皮下埋め込み腹腔ポートでの治療は、腹腔内に直接抗がん剤を注入する方法です。抗がん剤を注入するためにポートという器具をお腹の皮下に植え込み、腹腔内に留置したカテーテルに、皮膚の上からポートに針を刺して点滴を行います。腹腔内に抗がん剤を直接投与することで、広い範囲で腹膜播種に効果を及ぼすことのできる方法です。東京大学での試験では1年生存率が78%という高い成績となっており、現在では高度医療にも認定され、一部を除いて保険診療として治療を受けらるそうです。
また、この治療法は全身に対する副作用が比較的少ないため、外来での実施が可能です。そのため、患者さんのクオリティ・オブ・ライフを維持することのできる治療として注目されています。
専門外来とセカンドオピニオン
セカンドオピニオンについて
医師より腹膜播種と宣告された方も、決して簡単には人生をあきらめないでください。医師一人だけの判断だけで、その患者さんの人生の可能性を決めることはないのです。
患者さんが納得のいく治療法を選べるように、治療の進行状況や次の段階の治療の選択などについて、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることも可能なのです。これをセカンドオピニオンと言います。
セカンドオピニオンとして専門の外来を受診して相談をすることも、ひとつの可能性として視野に入れてみてください。
腹膜播種の専門外来もある
医師より「腹膜播種」と言われても、簡単にはあきらめないでください。腹膜播種は生存率の低い疾患と言われていますが、必ずしも死を意味するものではないということも忘れないでください。疾患や播種がどの程度なのか、それに対して適切な治療を行なうことができれば長期にわたる生存もあるのです。
現在、腹膜播種と診断された患者さんに対する「腹膜播種専門外来」を設けている病院もあります。
腹膜播種に対する治療を行わなければ、いずれは腸閉塞や閉塞性黄疸などの合併症をきたして死期を早めてしまいます。
治療をしなかったり、免疫療法を行うだけで放置すると、ほとんどの患者さんは腸閉塞状態になります。それでも人工肛門を作れる場合もありますが、人工肛門を作れなければ多くは2ヶ月以内の余命と言われています。すでに人工肛門を作っている患者さんであっても、腸閉塞が再発してしまうと余命は 1ヶ月程度と短くなるそうです。
ここで大切なのは、再発する前に積極的な治療を一日でも早く受けることなのです。
サンタマリア病院/癌性腹膜炎治療専門外来・腹膜播種(ふくまくはしゅ)外来/大阪府茨木市/内科/産婦人科/小児科/医療法人朋愛会/リウマチ/婦人がん/企業健診/
■がん(癌)性腹膜炎 専門外来につきまして より参照
おわりに
この疾患はすでにがんを患っているうえで起こった状態であり、予防や確実な治療法などがないものです。
すでに医師より腹膜播種と宣告された方は、現実を受け止めることが難しく、その後の人生について深刻に考えていることと思います。しかし、大切なことはあきらめずに正しい治療の選択を行うことです。疾患について正しく理解し、広い視野をもって治療の選択を行うことは、ご自身のクオリティ・オブ・ライフを維持することにつながります。
こういった方がご家族にいらっしゃる場合も同じです。家族がこの疾患についてあきらめないことがとても大切なのです。