1日せいぜい30円の下痢薬が糖尿病性腎症に有効か、透析の最大要因に一石
日本でも透析の最大の原因となっている「糖尿病性腎症」に、下痢の薬が効くかもしれない。既に日本でも使われている薬で1日せいぜい30円ほどの薬だ。動物実験の段階ではあるが、有望な薬剤候補になるかもしれない。
厄介な糖尿病性腎症
中国協和医科大学院のサン・シファン氏らの研究グループが、薬理学クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・ファーマコロジー・アンド・フィジオロジー誌オンライン版において2015年4月に報告したものだ。血糖値が正常範囲を超える「糖尿病」は、主に自分の体の防御システムである免疫系の異常によるとされている「1型糖尿病」と、主に生活習慣が原因とされている「2型糖尿病」の2種類が知られる。特に2型糖尿病の人が増えており問題となる。糖尿病が悪化すると腎臓の機能が低下して、血液のろ過が難しくなる糖尿病性腎症に至る。糖尿病性腎症になると、定期的に透析を行って人工的に血液から毒素を除く治療を受ける必要がある。いかに透析に至る人を減らすか、その原因となる糖尿病性腎症を防ぐかが大切になる。従来、糖尿病性腎症はいったんなると治すのが難しく課題となっている。
血糖、脂質を下げて腎臓のダメージ減らす
その糖尿病性腎症に効果を示す可能性が浮上しているのが下痢の薬として使われているベルベリンである。日本ではキョウベリンという商品名で使われており、1日の薬代はせいぜい30円程度の安い薬だ。研究グループは動物実験でそのメカニズムを検証した。ネズミに対して高カロリーのエサを与えて、膵臓にダメージを与える薬であるストレプトゾトシンを投与し、2型糖尿病を引き起こした。ベルベリンで治療をしてその影響を調べた。糖尿病となったネズミは2つのグループに分けて、一方には20週間にわたってベルベリンをチューブで与えて、もう一方には与えないようにして変化を見た。血液、腎臓から排出されるタンパク質、各種の組織、免疫反応などを検証した。結果として、ベルベリンが血糖と脂質の血中濃度を下げる上に、腎臓から出てくるタンパク質の一種であるアルブミンの尿中排出を抑え、さらに腎臓の組織学的なダメージを和らげていると突き止めた。
腎臓の炎症や機能しない線維を抑える
ベルベリンでの治療によって、「NF-κB」と呼ばれる遺伝子のコントロールに関わる分子が不活発になって、腎臓の炎症が抑えられていた。さらに、炎症を引き起こす分子は高まらないように抑えられ、組織を余計に増殖させる分子として「TGF-β」「Smad3」の信号も不活発にした。機能しない組織である「フィブロネクチン」「1型コラーゲン」「4型コラーゲン」も抑えて腎臓が機能しない線維で埋められるのを抑えていた。炎症、機能のない線維組織の蓄積、脂質異常を防いでいたわけだ。実験の段階ではあるが、既に使われている薬で安いだけに、今後、注目される可能性はありそうだ。
文献情報
Sun SF et al. Renoprotective Effect of Berberine on Type 2 Diabetic Nephropathy in Rats. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2015 Apr 13. [Epub ahead of print]
Renoprotective effect of berberine on type 2 diabetic nephropathy in rats. – PubMed – NCBI
Clin Exp Pharmacol Physiol. 2015 Jun;42(6):662-70. doi: 10.1111/1440-1681.12402. Research Support, Non-U.S. Gov’t