硬膜下血腫とは?急性と慢性とで予後が全然ちがう!原因・症状・治療法について説明します
硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)とは?
硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)とは頭の中にある硬膜とくも膜の間に血腫ができて脳を圧迫する病気です。
似たような名前の病気に硬膜「外」血腫(こうまくがいけっしゅ)というものがありますが、こちらは頭蓋骨と硬膜の間に血液が貯まる病気になります。
そもそも硬膜って何?硬膜下ってどこ?
硬膜(こうまく)とは、頭蓋骨のすぐ内側にある結合織性の強い膜のことです。硬膜・くも膜・軟膜(なんまく)の3つを合わせて髄膜(ずいまく)と呼びます。脳は通常、髄液(ずいえき)の中に浮いています。
硬膜下(こうまくか)とは、硬膜とくも膜の間のわずかな隙間にあたります。正常ならば、硬膜とくも膜は密に接しています。
ちなみに、このくも膜というのは、「くも膜下出血」のくも膜のことです。くも膜と脳との間に出血がおきるのが、くも膜下出血です。この病気はよくテレビで特集が組まれたりしますので、聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。
硬膜下血腫の原因は?急性と慢性のちがい
硬膜下血腫の原因は頭部に外から力が加わり損傷を与えられたことによります。外から力が加わる原因には、交通事故や殴打、お年寄りだと転倒による頭のケガ、若い人だとスポーツ中の頭のケガ、子どもの場合には虐待が原因になることもあります。
すべての年齢でみられる病気ですが、特にお年寄りに多く、子どもにはまれだと言われています。
急性は明らかなケガが原因になることが多いですが、慢性の場合は、ちょっと転んで頭をぶつけたことが原因になることもあります。頭をぶつけた直後はなんともなくて、症状が出てから振り返ると、「もしかしたらあの時に頭をぶつけたかも」という程度のことが原因になるそうです。また、原因が思い当たらずはっきりしないこともままあるようです。
急性と慢性のちがい
受傷直後に血腫が急速に大きくなり脳を圧迫して意識障害などの症状を起こすのが「急性」硬膜下血腫です。
これに対し、受傷後しばらくしてから物忘れや歩行障害など認知症によく似た症状が出てくるのが「慢性」硬膜下血腫です。
どちらも「硬膜下に血がたまって脳を圧迫する」病気なのですが、その血がたまる早さが急速かゆっくりかで症状も予後も全然違った結果になります。
以下は、急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫を分けて説明したいと思います。
致死的な「急性硬膜下血腫」の症状、治療、予後について
急性硬膜下血腫は「急性」の病気なので、診断も治療もすぐに行う必要があります。
多くは緊急手術となりますが、予後は死亡率60~70%と非常に厳しいものになります。
症状、治療、予後について詳しくみていきましょう。
1.急性硬膜下血腫の症状
・意識障害
強い頭のケガが原因でなることが多いため、脳そのものの損傷も大きく、ケガをした直後から意識障害を起こすことが多いようです。
ただし、脳そのものにはあまり損傷がないものの、血管にキズがついたことにより出血する場合には、意識障害がすぐには起きません。しかし、段々と出血の量が多くなり血腫が大きくなって脳を圧迫していくにつれ、意識障害の症状が現れてくることがあります。
2.急性硬膜下血腫の検査
多くの場合、緊急CTを用いて診断が行われます。
急性硬膜下血腫は脳の表面をおおう三日月型の高吸収域(白色)としてみられます。通常、片側の大脳半球全体をおおいます。
このCT画像から血腫の大きさや脳の腫脹(しゅちょう:むくんではれている状態)、圧排されている程度を判断し、治療法を選択します。
3.急性硬膜下血腫の治療
通常、緊急手術が行われます。全身麻酔をかけて、開頭し、血腫をとりのぞいて出血部位の確認、止血が行われます。
意識障害が軽く、CT上で脳が圧迫されていないような場合には、手術を行わずに保存的加療(内科的な治療のこと)を行うこともあるそうです。
意識障害の進行が速く、急激に悪化するような場合や全身の状態が悪すぎて全身麻酔をかけての手術に耐えられそうにない場合などでは、穿頭(頭に穴をあける)や小開頭で血腫除去を試みることもあるようです。状況によっては、手術室ではなく、救急処置室などである程度血腫除去を行い、その後の全身状態をみて全身麻酔下の開頭手術を行うこともあるそうです。
また、外減圧術といって、開頭した骨のかけらをもとの部位に戻さずに、皮下組織と皮膚のみでキズを閉じつおいう方法が取られることがあるそうです。この方法により、手術のあとの脳が圧迫される程度を軽くできるそうです。数か月後に状態が落ち着いたら、保存していた骨のかけらをもどしてキズのところをきれいに縫い直します。
以下に、治療の選択の際に参考にされているガイドラインを記載します。
表1 「重症頭部外傷治療・管理のガイドライン」急性硬膜下血腫の手術
《重症頭部外傷治療・管理のガイドライン》急性硬膜下血腫の手術
・適応基準
(1) 血腫の厚さが1 cm以上のもの。
(2) 明らかなmass effectがあるもの、血腫による神経症状を呈するもの。
(3) 脳幹機能が完全に停止し長時間経過したものは通常適応とならない。
・時期
適応基準(1)(2)を満たすものは可及的速やかに行うのが望ましい。
・方法
大開頭による血腫除去術が原則である。局麻下に穿頭し小開頭にて減圧を試みる場合もある。外減圧術については、効果ありなし双方の報告があるが、結論は出ていない。
*用語説明
mass effect:この場合のmassは血腫のこと。脳が圧迫され周囲の正常組織にも浮腫を起こします。CTでは、血腫の周囲がうっすらと黒く抜けるような所見としてみられます。
脳幹機能:脳幹は脳の一番奥にあり生命の維持や本能をつかさどっているとされています。心臓の拍動や呼吸などをコントロールしている、「生命脳」と呼ばれています。
4.急性硬膜下血腫の予後
死亡率は60%~70%にもなるとの結果が出ているようです。日常生活や社会復帰できた症例は18%程あるそうですが、そのほとんどの症例が高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)のために、苦労されるそうです。
*高次脳機能障害とは、記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など複数の障害を含みます。ここで説明するには長くなりすぎるため、興味のある方は検索してみてください。
参考URL: http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/shoujou/
このように急性硬膜下血腫では、ケガをした時点で脳に大きな損傷を受けているため、どうしても予後が不良となってしまうようです。
また、命は助かっても多くの症例で後遺症が残ってしまうなど怖い病気です。一度、機能不全になってしまった脳を回復させる有効な治療法がないためのようです。
治せる認知症?「慢性硬膜下血腫」の症状、治療、予後について
慢性硬膜下血腫は「慢性」の病気なので、頭にけがをしてから数か月後に症状が現れます。
お年寄りに多くおきるので、高齢化社会のなかで増加傾向にある病気です。
急性硬膜下血腫に比べ、完治が望まれる予後の良い病気です。
症状、治療、予後について詳しくみていきましょう。
1.慢性硬膜下血腫の症状
認知症によく似た症状がおこるため、家族が認知症を疑って受診することが多いようです。
通常、お年寄りに多く、男性に多くみられます。一般的には、ころんで頭をぶつけたなど、かるい頭のケガをしたあと、慢性期(3週間以降)に頭蓋内圧亢進症状(とうがいないあつこうしんしょうじょう)、片麻痺(かたまひ)、精神症状(せいしんしょうじょう)などの症状がでてきます。
・頭蓋内圧亢進症状:血腫が大きくなるにつれ、頭蓋骨内部の圧力が高まり、それによって頭痛や吐き気などの症状がでてきます
・片麻痺:身体の片側にだけ麻痺(体を思うように動かせない症状)がでてきます。麻痺まではいかずとも、しびれ、けいれんなどの症状が出てくることもあります。
・失語症(しつごしょう):言葉をうまく話せなくなります
・精神症状・認知症:物忘れや意欲の低下などが見られます。トイレがわからなくなり失禁をすることもあります。
年齢によって、どのような症状が起きやすいかにはかなりの差があるようです。
比較的若い人では、主に頭蓋内圧亢進症状による頭痛や吐き気が多く、加えて片麻痺や失語症が見られることがおおいようです。
これに対し、お年寄りでは、もともと脳の萎縮があるため頭蓋内圧亢進症状は起きにくく、認知症などや歩行障害などが起きやすいようです。認知症のような症状だけが現れる慢性硬膜下血腫もあり、比較的急に認知症のような症状が見られた時には慢性硬膜下血腫を疑うことが重要となります。なぜならば、アルツハイマー病などが原因の認知症とは違い、治療可能な認知症だからです。「治る認知症」とも呼ばれ、注目されています。
また、時として、急激な意識障害、片麻痺で発症して、脳ヘルニアの急性増悪型(急にどんどん悪化していくタイプ)の慢性硬膜下血腫もあり、このような症例では脳卒中ととてもよく似た症状を示すそうです。
2.慢性硬膜下血腫の検査
CTやMRIによる脳の画像検査によって診断されます。
また、他の病気と区別するために、記憶力検査や血液検査なども行うことが多いようです。
3.慢性硬膜下血腫の治療法
大きく分けて、外科的治療(手術)と内科的治療(薬物療法)の2つがあります。
手術は、頭に親指くらいの穴をあけて細いチューブを入れて血腫を取り除く方法が一般的に行われているようです。血腫は固まっておらずどろどろした血液であることが多いので、チューブを通して血液を洗い流します。チューブは取り出さず、しばらくそのままにしておき残った血液を流す処置が病棟(ベッドサイド)で行われます。
血腫が石灰化して固まっていてチューブで取り出すのが難しいときや何度も再発していまう症例では、全身麻酔をして開頭して血腫を取り出す、という手術が行われることもあるそうです。
基本は上記のように手術をするようですが、血腫が小さい場合などには手術をせずに利尿剤など用いた薬物療によって血腫が小さくなるのを待つようです。
また、最近では漢方薬を用いることもあるようです。五苓散(ごれいさん)を朝昼晩の1日3回服用していると血腫が小さくなっていくことがあるようです。五苓散は体の中にたまった水を排出する作用があり脳で起きる脳浮腫(脳のむくみ)を改善してくれるようです。一般の利尿剤などに比べ副作用が少ないという利点があるようです。
4.慢性硬膜下血腫の予後
ほとんどは、正しい診断が行われ、適切な治療が行われれば完治する予後の良いものです。
一部に急激な脳卒中と同じような症状を起こし、不幸な結果になる症例や、後遺症が残る場合もあります。
また、手術後の再発は約10%という報告があるようです。
どこの科で対応してもらえるのか
手術など治療は脳神経外科が担当になります。
ただし、診断は、急性硬膜下血腫の場合は、救急科で初期対応が行われることが多いようです。慢性硬膜下血腫の場合は、認知症が疑われて内科、精神科等で診断されることが多いようです。
硬膜下血腫にならないようにするには?なったときにはどうする?
以上のように、一口に硬膜下血腫といっても急性と慢性ではかなり違った結果になります。
いずれの場合も原因は頭のケガをしないことが予防になります。
具体的には…
交通ルールをよく守り、交通事故に気を付ける。
ヘルメットなどをかぶり、頭を守る。
お年寄りならば、歩きやすい靴を履き、杖を利用するなどして転倒を防ぐ。
といった方法が考えられるでしょうか。
特に慢性硬膜下血腫ならばきちんとした治療をすれば回復が見込まれますので、なんだか最近急に物忘れがひどいなぁ、とか歩き方がおかしくなったなぁ、という場合には、早めに受診するようにしましょう。
以上、少しでも皆様の参考になれば幸いです。